» 2013 » 1月 » 18のブログ記事

14日の大雪に始まったスタインウェイD274とガリーニ氏の到着は、ガリーニ祭と呼びたくなるほどに様々なドラマで彩られましたが、昨日、ガリーニ氏が仕事のためにバンコクへと旅立ったことで幕を閉じました。
まず、14日は奥泉運送さんは社の休日にもかかわらず、ガリーニ氏と私のスケジュールに合わせて、午後1時半に運搬を約束して下さっていました。運搬先となる我らがホールの工事現場も、これまた休みにもかかわらず、ピアノを迎えるべく、監督さんがスタンバイして下さっていました。雪の中、成田空港から車で走り、11時頃にインターを降りたので、昼食前に少しホールに寄ってみようかと監督さんに電話を入れてみると、「今、ピアノが入りましたよ!」というお返事(?)。大変な雪になることを見越して、奥泉運送さんが現場監督と連絡を取り、搬入を午前中に変更してくれていたのでした。今思えば、この英断が無ければこの日、ピアノは入っていなかったでしょう。
すでに無事に室内に搬入されていたピアノの脚を取り付けるところから立ち会い、ガリーニ氏に音を出してもらいながらピアノを置く位置を微調整しました。あちこちから声をかけられ、確認するべきことが山のように有り、ピアノの到着を喜ぶ時間はありませんでした。この日は検品だけして、すぐに大雪の中、ガリーニ氏が持って来た真空管の調律用チューナーの電圧変換機を探しに電気屋に向かいました。
15日、ガリーニ氏が調律を始めました。ガリーニ氏が何度も首をかしげていたのですが、不思議なことに、ピアノは一カ月以上も洋上にあったにもかかわらず、音程そのものがほとんど狂っていませんでした。ガリーニ氏がヨーロッパ標準である440Hzから日本標準の442Hzに変更するために調律に要した時間はたったの1時間15分!!驚異的スピードです。
あらためて紹介しますと、このピアノはスタインウェイ・ハンブルグの長さ274センチのフルコンサートグランド。本体は1990年製。共鳴板、内部の金属製部分、アクション部分、ハンマー、弦は全て、ここに来る前にハンブルグのスタインウェイ本社で新品に取り換えられています。年期の入った本体でのまろやかな音、新品のアクション部分と、私にとっては最高の条件です。そんなピアノのハンマー機構は、私の目の前で新品の証であるゴムが取り外されました。

新品の証。ハンマーからゴムを解きます!中はこの通りです。美しい!

午後にピアニストの水月さんが到着し、ピアノを試奏し始めました。その音の素晴らしさに、私、ガリーニ氏、音響設備の取り付けをして下さっている仲間も皆、思わず涙しました。驚くべきはまた、ホールの音響でした。試行錯誤した以上の成果が上がっており、巨大なピアノがどんなにフォルティッシモを奏でても圧迫感が無く、残響で音が変に混ざり合うことも無く、かといって響きは最大限に生かされており、ヴァイオリンとのアンサンブルではピアノとヴァイオリンがきちんとそれぞれ別々に明確に発音され、ヴァイオリンのピアニッシモも明確に隅々まで届くのです。ガリーニ氏は、微調整無しで最初からこの音響はあり得ない。音響の知識を豊富に持っている技術者でなければ無理だ。あなたが考えたのか?と驚き、絶賛してくれました。ピアニストの水月さんも、「家に帰って自分のピアノを弾くのが怖い」と何度もおっしゃっていました。(彼女もご自宅に、ミエザホールより小型ですが、スタインウェイのグランドピアノをお持ちです)また彼女はガリーニ氏の調律にも大変感銘を受け、「この音の感覚は一生忘れたくない。歌が溢れ出るような、、」とコメントし、彼の技術に興味を持って色々と質問なさっていました。
その夜は、ガリーニ氏と私の義理の両親とコアラ君とで、日本料理の懐石でゆっくりと食事を楽しみました。
16日は、いよいよ音響テスト本番。会場入りすると、お友達になっている職人さんと現場監督である社長さんが、「トイレを使えるように水とつないでおきました。紙も入れときましたから。」と、工事現場を少しでもホールらしくしようと、彼らも精いっぱい気を配って下さったようでした。とてもありがたいことでした。
プログラムは、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ3番、ヴィエニャフスキーの華麗なるポロネーズ、ドヴォルジャークのマズレック、スラブ舞曲、最後にイタリアの作曲家、ヴィタリのシャコンヌをガリーニ氏に捧げて演奏しました。響きは、人が入ったことによってかなり変化し、無人の時は小ホールなのに大ホールのような、不思議な感覚の響きだったのに対して、人が入ると一気に、お客さんをグッと音の世界に引きつけるようなライブ感溢れる空間へと変わりました。音の明瞭さと多彩さは変化ありません。ホールの出来栄えには満足です!
最後の曲を演奏し終えて、客席の方を見ると、ガリーニ氏は真っ赤になり、部屋の隅っこに号泣しながら固まっていました。集まって下さった皆さんの多くが目頭を熱くなさっており、演奏も、また音響テストも大成功であったことが分かりました。建築家はじめ、実際に工事に携わっている方たちも、6人いらしていたのですが、皆大興奮で、「凄い演奏!ビックリした。手が人間の動きじゃない(笑)。」「凄い集中力ですね。カッコいい!」「いやぁ、めちゃくちゃ感動した!呼んでくださってありがとうございました。」「良いホールが作れて本当に、本当によかった!」「あの、最後に入れた素材が効きましたね!」と、作業着の上着の裾をただしながら、それぞれに思い思いの感想を述べ、誇らしげで満面の笑みでした。とても嬉しかったです。
音響テストに参加してくれた他の仲間たちからは、やはりホールの音響(小さいけれど、ちゃんとホールの音響なのです)、やってきたピアノの音色の素晴らしさに、「瑞恵ちゃん、よくやったね。凄いね!すごく良いホールが出来るよ。おめでとう!」と、太鼓判を押して頂きました。

さて、ドラマは他にも色々と有ったのですが、この数日のお話は、これで終わらせて頂きます。
次はイタリアで会おう!とガリーニ氏と約束を交わし、この稀有な出会いに互いに感謝しながら立川発、成田空港行きのバス停前で別れました。
涙は無し。二人の友情もまた、新たなスタートを切りましたので!

凛として、彼はバンコクへ。私はコアラ君のもとへ。