昨夜、父とそんな内容について長々とディスカッションしました。
父が話していたことは、その中でも特に、親と子が「伝えあう」というテーマについてでした。そんなテーマに対して、ふと私が「音楽での伝え、コミュニケーション」を例に出すと、父が真っ向から反論しました。
「親と子の関係というものは、他の何ものに置き替えがたい、根源的で例外的、かつ特別なものだ。芸術とか音楽家と聴衆とのコミュニケーションというものが、ここで例に出てくること自体が間違っている。」
しばらくのあいだ考えた私は、「まったくその通りだね。」と答えました。
自分と子供の関係を考え、自分と両親の関係を考えた時、自分の話が間違っていることは明白だったからです。
父にとって、食卓を囲みながら我が子と話すこと、彼の情熱や生きる面白さを家族と分かち合うこと、子供の情熱やフィロソフィーに耳を傾け、驚き、刺激を受け、喜ぶことは、彼が生涯をかけ、そして今も情熱を注ぎ続けているリーシュマニア症という病の研究やフィールドワークと同じくらい大切なことだと、子供である私が一番よく分かっているだけに、父の言葉は重かったです。
まず相手を認め、尊重すること。その上で、自分の前向きなアイデンティティを伝え、共に会話を転がして、一緒に考えること。私が子供の頃から父に、日常的にしてもらっていたことです。そこにはひとかけらの、つくりものの感情も、親という立場からの押しつけも、気取りやとりつくろいもありませんでした。もちろん当然、個性の違いからくるぶつかり合いは、家族間でしょっちゅうありましたが。
真摯に伝える人は、「大切な人間関係そのもの」に、情熱を持っている。親子という関係に愛情だけでなく、子供の精神の輝きを見出し、その輝きを尊敬しながら磨く手伝いをしたいという、熱い情熱を持っている。伝えるということは、言葉やいたわり(ましてや偽りの)ではなく、態度であり、生き方であり、情熱と尊重をもって相手に接すること。この父の基本姿勢は70を過ぎても変わることはありません。
今はエクアドルに住む父。別れが名残惜しく、昨夜はひどく深酒をし、「なごりおしいから~」と珍しく歌を私に歌って聞かせました。父は破格に音痴で、心を揺さぶる歌を歌います。高まる気持ちを自由に、少しの飾りなくそのまま、言葉や声に乗せられるのでしょう。それしかできない父の、素朴で、天下無敵の歌声でした。
そして今日、何ごとも無かったかのように、山のような仕事が待つエクアドルに向けて、まずは成田へと旅立って行きました。
家族に向けられる、どこまでも広く温かい心。その無限の温かさが矢のように刺さって、分厚い氷を突き破るような、衝撃的な一夜の経験。その情熱は偉大としか言いようがありません。私は、あの魂と情熱を、次の世代へと伝えなくてはなりません。
» 2014 » 10月のブログ記事
一般のお仕事をやめてヴァイオリンで仕事を始めたころ、前の仕事のお客さんだったフレンチレストランのオーナーシェフから、「橋口さん、どんなものを演奏していくの?例えば、〇〇っていう曲は難しいの?そういうのをガンガン弾いて行くのかな?」と聞かれたことがあります。私はその曲そのものについてはコメントせず、こんなことを答えました。
「シェフは、誰にも作れないような最高の目玉焼きを作って料理に出してくれって言われたらどうします?」
彼は「う~ん!」と腕組みをして、「それはめちゃくちゃ難しいかも。でも燃えるなぁ!(笑)」
「それなんですよ、たぶん演奏の醍醐味って。技術的どうこうっていうより、シンプルな素材をシンプルに調理する。しかもプロとして、かつ自分らしく。それって難しいけど、真髄って感じしません?そういう誰でも出来ることで、お客さんを唸らせたりゾクッとさせられるようになりたいです。」
と言うと彼は、「すんごく解りやすい例えだった。橋口さん、頑張ってね。俺も最高の目玉焼き、頑張ってみよう。」
と言ってくれました。
なぜそんな話をするかというと、近頃、ポーチドエッグにハマっています。数年前に家で作る温泉卵にものすごくハマった時期がありました。卵って気温や天候(気圧で)、茹でる時間や置き時間が変わる、とても繊細な食材です。ポーチドエッグではなかなか理想の白身の固さと黄身の固さにたどり着けていません。少し気分転換して、とりあえず数年前にハマった温泉卵に立ち返ってみようと思い、ただいま「峠の釜めし」の容器と蓋を使って温泉卵を調理中なのです。そして作り始める時ふと、目玉焼きについてシェフと10年以上前に話した会話を思い出しました。
卵って奥が深い。シンプルで、理想にたどり着くのが難しくて、なんだか最高!!
をいつも更新してくれている夫が、アキレス腱を完全断裂してしまいました。
不幸中の幸いですが、断裂の翌々日には手術を受けることができ、その翌日には退院もしたのですが、下半身麻酔の後遺症で頭が痛いと唸りながらかれこれ6日間、ベッドとソファーと食事の間のみを移動する日々を過ごしています。断裂前にブログは更新されていたのですが、そんな状況でしたのでFacebookへのアップが遅くなりました!遅れてすみません!
10月から明日4歳になる、幼稚園の年少さんの女の子にヴァイオリンを教えることになり、今日がその初レッスンでした。
ミエザホールの建物を建てるために一時的に住んでいた隣町で、コアラ君が1歳になる前から2歳半まで、毎日のように仲良く遊んでいたお子さんです。
女の子のママとは、子育ての悩みをポロポロ打ち明けあった仲で、私自身が母親になって、初めて出来たお友達でもあります。
住む場所も離れ離れになり、子供が幼稚園に通うようになった忙しさから、近頃ではあまり会うことも出来なくなっていたのですが、嬉しい縁で、こうして娘さんと新しく、師弟関係を結ぶことになりました。
砂場でネコのウンチを見つけては、ママ達で右往左往したり、子供を抱えてトイレにダッシュしたり、ベンチに雀の様に並んでお茶を飲む子供たちを「可愛いですね。」と言い合いながら幸せいっぱいで眺めていたあの当時を懐かしく思い出しながら、こんな展開になるとは当時、まったく想像もつかなかったなぁ。と思います。
人の縁とは本当にどう転がっていくか分からないものですね。
しかしその縁以上に、音楽という奥深い世界に一歩足を踏み入れた小さな女の子を、しっかりと導き、サポートして行きたい。と、あらためてその責任に、身が引き締まった初レッスンでした。
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